加齢黄斑変性症に対する新しい治療法
網膜の中心部は黄斑とよばれ、ものを見るときに最も大切な働きをします。
この黄斑の働きによって私達は良い視力を維持したり、色の判別を行ったりします。
この黄斑が加齢にともなって色々な異常をきたした状態を加齢黄斑変性といい、失明の可能性がある疾患です。
加齢黄斑変性は滲出型と萎縮型に分けられます。
萎縮型は徐々に組織が痛んで死んでいくタイプで、黄斑に地図状の萎縮病巣ができます。長い間かかって視力が低下していきます。
もう一つの滲出型はその名の通り水がにじみ出てきて(滲出)、黄斑に障害が生じるタイプです。出血することもあります。
出血や滲出は脈絡膜新生血管といって、網膜の下の脈絡膜にできた、正常な血管とは異なる弱いもろい血管が生え、血液中の成分が漏れ出したりします。
症状
初期は両眼で見ると、あまり気にならないことがあるので、片眼ずつで確かめます。
- ものがゆがんで見える
- 左右でものの大きさが違って見える
- 見ようとする中心部分が見えにくい
- 部分的に視野が見づらい箇所がある
などという症状が出現します。
正常
加齢黄斑変性症
治療方法
この加齢性黄斑変性にはまだ決まった治療法はなく、特効薬はありません。
いまのところ、最も効果があるのが新生血管に対するレーザー光凝固療法とされていますが、
レーザーで焼きつぶした部分は組織がダメージをうけ、暗点となり見えなくなります。
新生血管はうまくつぶれても視力がかえって低下したり、視野の範囲がさらに縮小する可能性もあり、
黄斑の中心にある場合には有効ではありません。あなたの新生血管は中心にあるので、レーザー凝固の対象にはなりません。
手術により、網膜の一部を切開して新生血管を除去する方法もありますが、手術手技も難しく、
検討の結果80%から90%の患者さんは手術後0.1以下の視力であることが判明しました。
インターフェロンを数ヵ月間注射する方法、または放射線治療などもありますが、どれも効果についてはまだ確立したものではありません。
最近、新生血管に対して経瞳孔的温熱療法(TTT)により治療をする試みが報告されました。
弱いレーザーを新生血管に照射し、温熱療法により新生血管の発育又は新生血管から滲出を抑えようというものです。
異常な新生血管だけを選択的につぶすことを目的とするので、通常のレーザー治療ほど網膜への障害がなく、
理論的にはより安全でくりかえしての治療も可能です。
また、平成16年5月より光線力学療法(PDT)治療が厚生労働省の許可となっています。
経瞳孔的温熱療法(TTT)について
経瞳孔的温熱療法=Transpupillary thermotherapy(TTT)とは?
低出力半導体レーザーで低エネルギー密度のレーザーを長時間照射し、治療直後の組織破壊を生じさせない治療法です。
従来の光凝固治療は網膜を凝固しますので、組織破壊が生じます。
- 作用の機序(仮説)
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温熱により、hear shock protein (HSP)、キトカイン、細胞接着分子等の蛋白の発現が誘導され、
これらの蛋白により新生血管 or 周囲の細胞マトリックス繊維化が生じる。その他、温熱によるアポトーシスの誘導も考えられ、細胞機能の遅効性の変化を誘導して、
最終的に血管閉塞や組織機能不全を生じさせると思われる。 - TTTの特徴
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810nmの半導体レーザーでのTTTの最大の利点は凝固反応が起こらず、
エネルギーの吸収は殆んど網膜色素上皮層および脈絡膜で行われ、感覚網膜に対する侵襲は少ない。 - 成績
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Stevens:Arch Ophthalmol 115:345-350,1997
94%網膜下液の減少
視力改善(2段階以上)19%、不変56%、低下25%
Newsom:Br J Ophthalmol 83:173-178,2001
Classic型 CNV:75%
Occult型 CNV:78%で血管閉塞
- AMDに対する TTT power 設定
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Spot size 1.2mm 2.0mm 3.0mm Power 140~160mw 260~270mw 400mw Spot size は、CNV全体でカバーする大きさとするが、直径3mmを超える。
CNVは複数スポットで照射する。隣接するスポットは少し重ね、中心窩への照射は1回とする。
- 再施行
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効果が無かったら、3ヵ月待ってから再施行
平成14年12月より、当院でもTTTを始めています。
今まで悪い血管が中心部にあるため、光凝固出来なかった方にも、治療できるようになり、今のところ副作用は生じていません。
光線力学療法(PDT)について
光線力学療法(PDT)とは?
光線力学療法(以下PDT)は、光感受性物質(ビスダイン)を静脈内に投与し脈絡膜新生血管(以下CNV)の部位に薬剤を集積させた後、
特定の波長(689±3nm)をもつレーザー光線を照射し光感受性物質を励起させることにより、
活性酸素を発生させてCNVの閉塞などの臨床効果を発揮させる治療法です。
感覚網膜に損傷を与える従来の「レーザー熱療法」とは異なり、感覚網膜を損傷させることなく
CNVを選択的に閉塞させることのできる治療法として開発され、2003年4月時点で、世界65カ国で実施されています。
欧米での臨床試験で、PDT施行群ではプラセボ群と比較し、有意に視力低下の割合が少ないことが示されました。
日本では2004年5月から、治療が開始されました。
本治療の施行は、日本PDT研究会が定めた資格を満たす認定医に限られています。
また対象となる疾患は、中心窩にCNVを伴う「滲出型」の加齢黄斑変性症のみです。
加齢黄斑変性以外の病態に基づくCNVや、萎縮型加齢黄斑変性症例は適応となりません。
治療の流れ
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視力、眼底所見、蛍光眼底造影所見などから適応を判断します。
適応と判断されれば、病変の最大径を測定し、レーザー照射範囲を決定します。
また、身長、体重から体表面積を計算し、用いる光感受性物質の量を決めます。
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光感受性物質を静注してから15分後に、PDT用のレーザー装置を用いて8秒間の低出力レーザー照射瘢痕は残りません。
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初回治療は必ず入院が必要です。治療後に48時間は入院していただき、副作用の有無をチェックします。
また、この時期は、光過敏反応を生じる恐れがありますので日光を浴びることは避けていただきます。
外出時は必ず、サングラス、手袋などを装用していただきます。
ただし、暗闇にとどまる必要はなく、室内の蛍光灯の明かりなどはむしろ浴びたほうがphoto bleaching効果で、
体内の光感受性物質がより早く失活します。 -
初回治療後から3ヶ月毎に造影検査を行い、CNVから蛍光漏出の有無をチェックします。
漏出があれば再治療を行います。
PDTの治療成績
海外における多施設臨床試験でclassic型CNVには有効性が証明されています。
また、海外の治療成績ではclassic型の成分の少ない割合が高くなっていましたが、その後多症例の解析結果が進み、
最近FDAは2乳頭面積以下の小さい病変に対するPDTを認識しました。
わが国ではこれらの病変分類に関わらず、「中心窩新生血管を伴う加齢黄斑変性」に対して、保険適応が認められています。
※ classic型、occult型はフルオレセン蛍光眼底造影によるCNV所見の分類です。
治療に際しての注意
初回の治療は入院となります。治療後48時間は院内でお過ごしいただき、副作用などを監視します。
治療に用いる光感受性物質が体内に残っている間は、日光に当たることを避けていただきます。
また外出時はサングラス、帽子、手袋などを携帯していただきます。
1回の治療で新生血管が退縮していなければ、3ヵ月後に再治療を行います。
- 治療実施例
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3月 6月 9月 12月 1年目 検査治療入院 検査治療 検査のみ 検査治療 2年目 検査のみ 検査のみ 検査治療 検査のみ 治療スケジュールは患者さんごとに異なります。
当院でも平成16年9月よりPDT治療を始めており、平成19年10月1日現在で166眼の治療をしており、CNN消失は80%位で有効となっております。